2006年10月15日

メッセージ翻訳の難しさ

Gimpに関するリソースは、その多くが英語で書かれています。マニュアルやチュートリアル、ドキュメント、そしてプログラム本体の中のメッセージも英語です。
Gimp開発者の分布をみると、ヨーロッパが多くて次にアメリカ・カナダが多いようです。残念ながら、現在活発に活動している日本人のGimp開発者はいないようです。

英語をそのままスラスラと読める人なら問題はありませんが、日本語じゃないと色々と不便だという私みたいな人は結構いるでしょう。
Gimpのようなプロジェクトの場合、ドキュメントなどの翻訳は有志がやらなければだれもやってくれません。

ここではチュートリアルやドキュメントの翻訳ではなくて、Gimpプログラム本体の中のメッセージ翻訳の難しさについて触れようと思います。

翻訳をする場合、普通の文章を翻訳するのとは違ってGimpについて水準以上の理解度が必要です。Gimpのような専門分野のソフトウェアでは、その方面について長けていないと意味の間違いが起こりやすいからです。

Gimpのメッセージは抽出されて、それぞれの言語のメッセージカタログとして存在しています。Gimpの場合はそれぞれ
・Gimp本体: gimp20
・LibGimp: gimp20-libgimp
・プラグイン: gimp20-std-plug-ins
・Script-Fu: gimp20-script-fu
に分かれています。他にはPython-FuやPerl-Fuのためのメッセージカタログが入っているかもしれません。

メッセージカタログのコンバート前のテキストファイルの内容は、例えばこんな風になっています。
#: ../app/dialogs/dialogs.c:195
msgid "FG/BG Color"
msgstr "描画色/背景色"

#: ../app/dialogs/dialogs.c:201
msgid "Brush Editor"
msgstr "ブラシエディタ"

#: ../app/dialogs/file-open-location-dialog.c:71
msgid "Open Location"
msgstr "場所を開く"

#: ../app/dialogs/file-open-location-dialog.c:104
msgid "Enter location (URI):"
msgstr "場所の入力 (URI):"

#: ../app/dialogs/file-save-dialog.c:185
msgid "File exists"
msgstr "ファイルは存在します"

未翻訳の場合は msgstr の中身が空欄であるか、Fuzzyがついています。未翻訳部分を自動的に探し出して翻訳の助けをしてくれるツールやEmacsのmodeがあるので、それらを使うと翻訳しやすいです。

コンバート前のメッセージファイルの内容は上のようテキストファイルに記述されたものです。Gimpプログラム中から抽出されたメッセージの単語があり、それに対応する訳を記述する形になっています。(ソースコード中のメッセージにそのメッセージが翻訳対象であるというマークがされている)

ここで落とし穴があり、それはただ単に逐次的に対訳していくだけでは間違いが起こるというものです。
例えば、Gimpにおいて"Value"が使われているところは「値」と「明度」の二通りに分けられます。"Select"は「選択(する)」ですが、「選択領域」を指し示す場合もあります。
単語だけみて翻訳するのは危険なのです。

そういった曖昧な場合は、その単語が出現する元ソースコードを参照して判断する必要があります。
そこでも分からなければ、実際にGimpを起動してその単語がどの場面で使われているのかを調べる必要があります。この手続きを省略すると間違った翻訳になります。
これが、逐次的な対訳だけではダメな理由です。
普通の小説を翻訳する時には全体の文章の中からその単語の訳を決めるのに対して、単語しか出ないGimpのメッセージカタログファイルの翻訳にはその単語がGimpのどこでどのように使われているかを知っていないと翻訳にミスする場合があるのです。

gimp-2.2.13の場合、Gimp本体には2396個の翻訳が、LibGimpには175個の翻訳が、プラグインには2624個の翻訳が、Script-Fuには521個の翻訳する箇所があります。
これだけ大量の翻訳箇所があった場合、過去の翻訳ミスや、Gimp機能が変わって翻訳のやり直しが生じた場合など、もう一度メッセージカタログの翻訳チェックをやるのは大変です。翻訳箇所があまりにも膨大すぎて間違いがないか見直すのが困難な状態なのです。
よく目に付く部分や機能にそぐわない部分の翻訳の間違いには気付くかもしれませんが、そうでない部分の誤訳にはなかなか気づかないものです。
翻訳が間違っている例 (メニューの表示→情報ウィンドウ でHSVに)

#: ../app/widgets/gimpcolorframe.c:286
msgid "Sat.:"
msgstr "状態:"


さらには、Gimpが過去から何年にも渡って開発されていることから、メッセージの翻訳も何年にも及んでいます。それゆえ何代かに渡って複数の人が翻訳にかかわっており、翻訳者による表現のゆれや用語の統一がされていない箇所があります。
当然ながら、翻訳というのは翻訳者の感性にも大きく左右されます。レイヤーモードのHard Lightを「強い光」とするか「ハードライト」とするかが典型的な例でしょう。(個人的には後者のほうがいいと思いますが)


Gimpのメッセージカタログを翻訳するのは、本当に大変な作業です。
翻訳者に求められるのはGimpへの深い理解と、画像処理やグラフィックアートに対する正しい知識と、その単語がGimpの中でどういうところに使われているのかをきちんと調べることです。
しかし最も大事なことは、膨大な量であるGimpメッセージカタログ全体を根気よく継続してメンテナンスできるということでしょうね。




取り込んだ線画のごみを取ったりする手法の一つとして、線画→線画部分を選択領域化→選択領域をパス化→パスを選択領域化(→選択領域を塗りつぶす)、という手順があります。

選択領域を作成し、パスダイアログや選択エディタにある「選択領域をパスに」変換するボタンをShiftキーを押しながらクリックすると、選択領域をパスに変換する際の詳細な変換オプションを指定できるダイアログが開きます。(これはGimp本体の機能ではなくてsel2path(_advanced)というプラグイン)
selection2path.jpg

ここで表示されるダイアログのメッセージは全て英語なのですが、このダイアログはGimp開発者の意向によって意図的に原文のままにされています。
どうして原文のままかといえば、選択領域をパス化する詳細なオプションが普通からは隠された高度な機能であり、テクニカルタームである調整値の翻訳が誤解に繋がるかもしれないから、というものです。
しかしこれは翻訳者の力量によるのが原因のはずです。英語圏の人がそのまま読めるダイアログなのに日本語圏などだと英語を読めない人だと使いにくいダイアログというのも変ですね。原文のまま残す理由にナンセンスなものを感じます。
posted by いっちー at 02:30| Comment(3) | Dialy | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
トゥーディと申します。以前「GIMP2を使おう」さんの「日本語ローカライズ改善計画」に提案していたことがあります。その時から感じていることを述べてみたいと思います。
(なお、私はWindows版のユーザーです。残念ながらWindows以外のOSに触れたこともありません。これから述べることもWindowsを前提にしていることをあらかじめ申し上げておきます。また、GIMPにも画像処理やグラフィックアートに対しても知識や理解が深い訳ではありませんが・・・)


メッセージの日本語翻訳は、メッセージを日本語へ変換することではなく、直感的に動作をイメージできる日本語のメッセージを探し出す、或いは創り出すことではないでしょうか。そのためには、プラットフォームのOSでの表記や他のソフトでの表記を大いに参考にすべきと思うのです。

例えば、ファイルメニューの「新規」「保存」は、それぞれ「新規作成」「上書き保存」にしてみたらどうでしょう。これらの表記はOfficeをはじめWindowsのソフトの多くが用いている表記です。これならあまりコンピュータに詳しくないユーザーでも何となくコマンドの意味が理解できるでしょう。
このように一般的なソフトの表記を参考に(と言うか真似)するのも時には必要と思います。

画像処理やグラフィックアート特有の用語(例えばレイヤーモードの表記)は、PhotoShopに出来るだけ合わせた方が良いと思っています。このソフトが好むと好まざると画像処理ソフトの標準であると思うからです。
町の本屋には、GIMPに関する書籍は少なくてPhotoShopに関するそれは溢れています。GIMPユーザーがPhotoShopの書籍を参考にせざるを得ない場面は多々あるでしょう。そんな時、専門用語が同じならより理解し易いと思うのです。(もちろん、表記が同じでもPhotoShopとGIMPでは動作が違うといこともありますが・・・それはそれでGIMPとPhotoShopの違いが解り画像処理ソフトへの理解が深まるかもしれません。)

パソコンは既に家電のひとつになっています。デジカメも一通り普及し撮るだけでなく画像編集もしたいという方が増えています。そしてGIMPはフリーソフトです。パソコン初心者のGIMPユーザーは今後さらに増えていくことでしょう。そのような方がGIMPを使い続けるためには、翻訳が重要になると感じています。
Posted by トゥーディ at 2006年10月20日 02:28
コメントありがとうございます。
このトピックは再度取り上げて今回とは別のことも書く予定ですので、楽しみにしておいてください。

Gimpメッセージ翻訳については、Gimp-2.0という翻訳が未整備な状況を体験した人だと特に格別な思いがあるかもしれませんね。
できれば他の人のコメントも聞きたいところです。

>メッセージの日本語翻訳は、メッセージを日本語へ変換することではなく、直感的に動作をイメージできる日本語のメッセージを探し出す、或いは創り出すことではないでしょうか。

単なる翻訳からさらに一歩進んで、ユーザービリティの高い翻訳を目指すということでしょうか。
その場合だと、何をどのぐらいまで改変しても良いのかというさじ加減が難しいですね。原文の意味を損なわないようにしつつ、別の言葉に置き換えるという・・・翻訳者の力量にかかってくるところです。
例えばですが、GUMを翻訳しておられる後藤さんと比べると、私の翻訳は原文に近いほうがいいという姿勢であるのに対して、後藤さんのほうは原文を尊重しつつ柔軟に言葉を変化させていたようです。
Posted by いっちー at 2006年10月20日 20:43
はじめまして。しげっちと申します。
日本語のローカライズの問題はいろいろと難しい問題だと思います。特に、文法や文化的な背景が違ったりすると日本人としては頭を痛めることも多くあります。

例えば、英語のメニューでは"File→New..."や"File→Open"は"New file", "Open file"で文章の一部のように読めるのでなんとなく分かりますが、日本語で"新規ファイル","開くファイル"と言ってもピンとこないところがあります。
それに、日本語では名詞で止める言い回しが作業(オペレーション)を表すのには向いていないことも問題のひとつだと思います。作業の命令は動詞で言い切りたくなります。

時には原文のカタログが酷くて訳せない場合もあります。
http://www.imou.to/~AoiMoe/column/win/could-not-be.html

英語で自然ないいまわしを元にしたナビゲーションが、日本語では自然ではないところが、違和感を感じる原因ではないでしょうか。やはり、日本語で自然な言い回しに変更することは必要なのだと思います。

ただ、「新規」「保存」はGimpのカタログをメンテしているGNOMEで統一しているようなので、これが変わるのは難しそうですね。
Posted by しげっち at 2006年11月25日 01:06
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